レポート

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花巴の作り手(美吉野醸造)を訪ねました

2015 06.23

新酒の造りが一段落する五月某日、名古屋の栄を拠点とする純米酒専門店 八咫の企画で奈良県吉野の美吉野醸造さんへ蔵見学に行ってきました。
今まで、「雄町大好き。米の味を感じる純米酒であまり磨いていないものが好き。」と周囲に公言していた私ですが、今回は橋本杜氏の「良く溶けてくれれば米の種類には拘っていないんです」という発言に衝撃を受けました。また、説明を聞いて「確かにこの考え方もわかる!」と納得しました。その橋本杜氏が花巴に込めた思いが少しでも伝えられたらと思います。(私の米への思いは過去のコラム「自然米を育てる」シリーズをご覧下さい)

酒母造りにこだわった酵母無添加の酒造り

美吉野醸造は、奈良県吉野の中でも山深い奥地にあります。蔵の目の前には吉野川(正式名称は紀ノ川)が流れ、古くから渡し船着き場として栄えた場所だそうです。この吉野川の北と南では地層が異なり、ここから南を紀伊半島と呼ぶそうです。蔵の裏には川沿いに柳の木があり、ここが昔は渡し場の目印だったとか。このお話は、蔵を訪ねた最初に先代蔵元がご説明してくれました。

吉野川に架かる橋からの景色。蔵はどこかわかりますか?

地域の歴史を蔵元から説明頂きました(橋本杜氏のお父様です)

直近の蔵の成り立ちや橋本杜氏がほぼ一人で酒造りをしていること、酵母を添加しないで蔵付き酵母で造っていることなどは、2015年2月の「dancyu日本酒クラッシック」に記事がありますのでご興味がある方はそちらをご覧下さい。

dancyuの記事にもありますが、「酒母造りを敢えて酵母菌にとって過酷な環境で行うことで、その生存競争に勝ったものだけが優良な酵母菌であるという考え方」で酵母菌を添加ぜずに酒母を造っています。これを橋本杜氏は「酒母が酵母を選ぶので毎回違いがあってもこのやり方でできた酒母で造る酒は花巴らしい酒になると思ってます」と表現されていました。こんな話を聞きながら酒母を作るタンクや醸造用のタンクを見せてもらいました。

酒母を育てるところです

こちらが説明をしていただいた橋本杜氏です

その後、麹室へも入れていただき、麹造りのお話を伺いました。こちらでは総破精麹にしているとのこと(麹については私ももう少し勉強が必要なので詳細は他へ譲ります。すみません。)。通常は湿度80%の状態にして作業をされるそうですが、時々湿度を100%にして「遊ぶ」そうです。環境の変化にどう応えてくれるかを感じるのは楽しいですよね。また、一般的には蒸米の上から麹をパラパラと振り返るイメージがありますが、こちらではドバっと倍くらいかけてしまうと言われていました。最終的にはアミノ酸を上げて酸とバランスを取れば大丈夫という考え方だそうです。この辺りも個性的ですね。

麹室の中で説明を伺いました。

その土地の自然な気候の中で、そこに存在する菌と水と米から自らの信じる工程で酒を造ることが、「ここでしか造れない酒になる」という考え方、素晴らしいと思いませんか。

三種類の酒母での造り

花巴は、以下の3種類の酒母で酵母無添加の酒造りをされています。

1)速醸もと
2)山廃もと
3)水もと

1と2は聞いたことがある方も多いとおもいます。ただ、1と2においても橋本杜氏の解釈があり、速醸もとでも酵母菌は添加しません。詳しい考え方の紹介は割愛しますが、今まで色々なところで聞いていた話とは一味違う説明です。
さて、3の「水もと」ですが、これこそが今回私が一番興味を持っていた造りです。平たく言うと「蒸米ではなく生米を水に浸して発酵させる」という全国的に珍しい製法です。生酛造りが始まるよりも前の室町時代に奈良の寺院で始まったと言われています。水もとでの酒母造りには色々と工程があるらしいのですが、ある程度発酵したところで、水(この水をそやし水と言うそうです)と米を分け、米を蒸してから、またそこにそやし水を戻して発酵させるという何とも不思議な工程を行います。これは気温に関係なく夏場でも行えるそうで、こうして出来た酒母は低温管理の必要もなくそのままタンクで仕込まれます。低温管理しなくても酒母は元気なんですね。これは正にその土地の気候で造られたその土地の酒と言えると思います。この水もとで造られたお酒は独特の酸があり、好みが分かれるかもしれませんが、非常に面白いお酒です。そして、この造りで、この味で良いと感じる理由がありました。

野生の力強さと優しさが調和した自然体の食中酒

花巴が目指しているものは「野生の力強さと優しさが調和した自然体の食中酒」だそうです。「食中酒」といっても何をもって食中酒というかというのはなかなか定義が難しいと思います。
橋本杜氏が考える食中酒は、端的にいうと「地元の伝統的な食事と合うお酒」だとか。この美吉野の地で造る酒は、この地の食事と合うべきということで、具体的には「味噌、醤油」をベースとした発酵食品、燻製などだそうです。食材も基本は地元の野菜、それに川魚や鹿肉など。こだわりの酸が、これらの料理としっかり合います。と言えるのも、今回の企画でご用意いただいた昼食は蔵からさらに山の奥というか上の方へバスで40分ほど行ったところにある農家さんが運営されている「旬の野菜レストラン 農悠舎王隠堂」で、この地の料理と花巴をいただいたからです。自身の体験として「合う」と自信を持って言えます。特に山菜のてんぷら、鮎の味噌煮と鹿肉の燻製、そして梅干しの燻製はぴったりでした。この地は梅の一大産地でもあったのです。レストランに着くまでの山にはたくさんの梅園がありました。

地元の食材での昼食。手前のお皿はすべて燻製です。

昼食のお供は勿論”花巴”

やっと米の話をする

現在、美吉野醸造としては、地元の米を使いたいということで、契約農家さんを募って地元の酒米で酒造りを行えるように進めているそうです。そこで「吟のさと」というお米を作り、それに切り替えて行っているとのこと。私の好きな「花巴 山廃雄町」が無くなるのでは、と思い雄町も使って欲しいと食後の団欒の中でお願いに行った時でした。「地元で雄町を作ってくれるところが見つかれば続けますよ」と仰ったので、「米の種類へのこだわりはないのですか」とお聞きしたところ「うちの酒母によく溶けてくれればそれが一番いい米ですね。品種には正直こだわりありません。今の所、吟のさとがよく溶けてくれる感じなんです。」との回答!
どんな品種の米で造ろうが、ここの酒母で、この地で造られた酒は花巴の特徴をもっているという考え方からすれば、当然の答えかもしれませんが、個人的にはかなり衝撃的でした。当然、米を蔑ろにしているわけではなく、米に左右されない味へのこだわりと言えばいいのでしょうか。その考え方は非常に新鮮でした。
今回の体験を通じて自分の日本酒の楽しみ方の幅を広げていただいた気がします。

やはり造り手の思いを知ると更にお酒がうまくなります! 皆さんも気に入った銘柄を見つけて蔵を訪れてみてください。きっと新しい発見があるはず。

追伸1:
今回、蔵訪問を企画して頂いた純米酒専門店八咫は、名古屋の栄だけではなく、同じく名古屋の伏見、東京新宿三丁目にも店舗があります。名古屋を拠点にされているだけに新宿でも中部や近畿のお酒が色々と楽しめます。

追伸2:
「水もと」は、奈良県を中心に作られている「菩提もと」とかなり似た酒母の造り方です。興味を持たれた方は、菩提もとのお酒も飲んでみてください。

花巴の作り手(美吉野醸造)を訪ねました

written byけんけん

けんけんこと、岡 健一郎(おか けんいちろう)です。日本酒を飲み始めて20年。年を追うごとに日本酒が好きになっていき、今では周りの若い人に日本酒を薦めています。普段は全く日本酒とは関係のない仕事をして、夜には呑みに行ったり、家呑みしたりの日々を過ごしていました。また日本酒ラベルのコレクターでもあります。 sakefanサイトをご覧いただいている多くの方と同じ立ち位置からの発信をしていければと思って始めたこのコラムですが、勤めていた会社を辞めて日本酒に関係のある仕事をメインにしていこうと模索している現在です。

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