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「学校蔵 特別教室」で見た、酒蔵が進める地域興しの形

2017 06.23
(写真提供・佐渡地域力幸釀委員会)

(写真提供・佐渡地域力幸釀委員会)

酒蔵ツーリズムをはじめとして、酒蔵自体への注目度、観光資源として酒蔵の価値がますます高まりを見せています。 つい10年前まで、酒蔵見学といえば博物館的設備を整えた限られた場所だけでした。
お酒は美味しい、けれど、それを造っているのがどんな人たちなのか知る由もなく、逆に言えば、造りの現場から消費者は見えにくく、それが当たり前のことでした。
蔵元や杜氏さん、蔵人が愛飲家と触れ合う時代になって、造りの現場に関心が向き、これだけの盛り上がりになったと思われます。今も蔵見学不可というところから、造りに参加できるところまで、スタイルは多種多様。それも個性の一つと言えるでしょう。

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2010年、新潟県佐渡の西三川小学校が廃校になりました。そこは日本一夕日がきれいと言われたという学校。この場所を、この学校をそのまま残したい、と、動いたのは、「真野鶴」で知られる尾畑酒造でした。そこを酒造りの場にする、「学校蔵」という発想は、「酒蔵だから」当たり前かもしれませんが、さらに、故郷・佐渡へたくさんの人に来てほしいという思いと結びつけ、地元のために活かしたい。全国から、世界から、佐渡に人が集まるような場にしたい。その話を開いた当時、それは、具体的にどういうことなのか、本当にできることなのか……、実感が湧きませんでした。

やがて、壮大な構想「学校蔵プロジェクト」は、着々と進み、見事に実現。その内容も注目され、本という形になって世に出ました。「学校蔵の特別授業 佐渡から考える島国ニッポンの未来」(尾畑 留美子箸・2015年)は、大きな反響を呼びました。
古い木造校舎を酒造りの場に再生し、(冬場は本社で酒造りをしているため)夏場に酒造りが出来る設備を整えるのは、大変な作業だったと思います。
そして、本当に、国内各所から、海外から、佐渡へ来るきっかけとしてしまったのです。例えば、年に一回開催している「学校蔵の特別授業」。講師を招き、教室を使って佐渡から島国ニッポンの未来を考えるワークショップです。

学校蔵の特別授業」の運営は、専務の尾畑留美子さん中心となって結成した佐渡地域力幸釀委員会が行っています。校長を務める尾畑酒造社長・平島健さん、尾畑留美子さんは学級委員長。(写真提供・佐渡地域力幸釀委員会)

19449493_1379471375464861_694042956_o 学校蔵の特別授業」の運営は、専務の尾畑留美子さん中心となって結成した佐渡地域力幸釀委員会が行っています。校長を務める尾畑酒造社長・平島健さん、尾畑留美子さんは学級委員長。(写真提供・佐渡地域力幸釀委員会)

2017年6月10日、4回目となる「学校蔵の特別教室」に集まった人たちは、「また、特別授業に参加したい」という常連さんを始め、「佐渡へ行ってみたい」ということもありますが、「自分のために何かを見つけたい」、「地域おこしのヒントを得たい」という人ももちろんいたようです。さらに、その存在に注目して、海外在住で日本へのツアーで目的地の一つとしてリサーチに来た人まで、幅広いものでした。
さらに学校蔵では酒の学びの場としても活用されています。基本的に一週間通うことを前提に、酒造りを体験したい人を受け入れているのです。免許の関係で、清酒をと名乗れないため、そこで出来たお酒は、敢えて、杉の香りをつけてリキュールとして出荷。懐かしい木造校舎の木の香りに思えるかもしれません。

—学校蔵のテーマ—
この酒蔵小学校=学校蔵が掲げる校訓は「幸釀心」。幸せを醸す心です。
そして、4つの柱で運営。「1 酒造り」=オール佐渡産を目指して酒造り。。「2 学び」=一週間の仕込み体験ができる。「3 環境」=自然再生エネルギーを酒造りに導入。理論上100%を賄う。4つ目が「交流」。
「特別教室」は、その事業の中の一つであり、最大のイベントといえます。

「学校蔵の特別教室」 第4回
〜平成
29年6月10日(土)〜
ホームルーム:校長先生からのご挨拶
1時間目:「世界から佐渡を見る」
2時間目:「幸せを産む働き方」
3時間目:「ひまわりタイム」(校内散策・ひまわりの種を花壇に植える)
4時間目:「生徒総会」〜佐渡高校生徒達による発表他。

この会の常任講師的存在と言えるのが、地域振興などに詳しい藻谷浩介さん。
「北国の果実であるりんごも、南国の果実・みかんも育つように、植生分布の境界線とされる北緯38度線上にある。代表的な景観が揃って日本の縮図と言えるのが佐渡」と語り、授業の進行も受け持ちつつ、深い関心を持つ地理的な観点で、時々入れる茶々が興味深いものでした。

藻谷浩介(もたにこうすけ)さん(日本総合研究所主席研究員)

藻谷浩介(もたにこうすけ)さん(日本総合研究所主席研究員)

出口治明(でぐちはるあき)さん(ライフネット生命保険会長)

出口治明(でぐちはるあき)さん(ライフネット生命保険会長)

見慣れた地図とはどこか違う、左に135度傾けた地図が、黒板の横に掲げてあります。これは地球的な航路が確立される前、日本の捉える世界の枠が小さかった頃の世界観を見せてくれます。

逆さ地図、と言いたくなるような地図

逆さ地図、と言いたくなるような地図

もう一人の先生、出口治明さんが、
「アジア大陸からの日本の入り口は、北部九州であり、立ち寄り拠点として最適なのが佐渡という島。自分の場所も、いろんな角度にひっくり返してみたら、面白いものが見えてくるのでは」と語ります。

また、『働き方の教科書』という著書もある同氏の話の中で、
「人の生活の中で仕事は多くみても3分の1。ワークライフバランスじゃなくて、本来はライフワークバランス。仕事でそんなに悩むことはない。」とも言われますが、でも、だからこそ、どうやったら楽しくできるかも大事であるというメッセージが印象的でした。

近年は職場改善が進んでいるはと言え、一般的な観点からすれば、酒蔵は醪という赤ちゃんを育てているわけなのである意味24時間ずっと気が抜けないというタフな仕事です。でも、皆さんはそれを好き好んでやっています。楽しんでやっているからこそ、美味しいお酒が生まれてきているのだと思えます。
酒造りに従事する多くの人が口にする「和醸良酒」。表面を取り繕っても、お酒にはちゃんとバレるらしいです。

ちょうど学校蔵で酒造りを学んでいたアントニ・カンピンスさん。スペイン・ピレネーの山中、人口70人の村で日本酒を造っている」

ちょうど学校蔵で酒造りを学んでいたアントニ・カンピンスさん。スペイン・ピレネーの山中、人口70人の村で日本酒を造っている」

さらに特別授業では、ちょうど酒造り体験に来ているというスペイン人、アントニ・カンピンスさんが、紹介され、来場者を驚かせました。
アント二さんは一昨年からスペインで酒造りを始め、今回、2造り目を終え、3季目を迎える前のオフシーズンを利用して研修に訪れたところ。成田空港で「youはなにしにニッポンへ」の取材班につかまり、密着取材というオマケも付いたそうです。(アントニさんのインタビューは、改めて掲載します)

また、佐渡に関わる方々の体験談も披露。シネマカフェを開き、好きな映画の上映を始めている人もいれば、まだ、迷いのまっただなかにいる人も。その後は、客席からも参考意見を。成功例だけではない事例に、故郷に帰ることの現実が垣間見えました。

 Uターン、Iターン、などで、佐渡に帰ってきた人たちの体験談も紹介。

Uターン、Iターン、などで、佐渡に帰ってきた人たちの体験談も紹介。

最後の生徒総会では、高校生による佐渡活性化案の紹介。「もし、僕らが佐渡株式会社の社長だったら」。新潟港からの船が着く両津に近い海水湖に人を呼ぶことを考え、「水上のカジノシティ」を運営することを提唱。客席に問いかけるなど、プレゼンテーションのコツもしっかり会得しているようでした。

実は、前の授業の途中で、学級委員長から高校生に「高校を卒業後、佐渡を出る人? 大学卒業後、佐渡に帰ってこようと思っている人?」という問いが投げられました。高校卒業後も残る人、大学卒業後に戻るつもりの人、大学卒業後、海外を見てみたい人、様々でした。
「都会に出るのもいいし、世界を見て回ることも無駄にはならない、けれど、最後は、ここに戻ってきてほしい」と、ストレートに訴えた、校長先生。高校生たちにとっては、今回も、刺激がいっぱいで多くの視点と発見を得ることのできた特別授業だったに違いありません。

観客を引きつけること、理解してもらうため工夫など、考えられた高校生のプレゼンテーション

観客を引きつけること、理解してもらうため工夫など、考えられた高校生のプレゼンテーション

その後の、質疑応答、意見交換では、「佐渡はすでにテーマパーク」「活用するべきものがすでに豊富にある」「昔ながらの人とのふれあいが、ここにもまだある」などなど、さすが、佐渡フリークと思わせられる面々でした。終了後も、参加者同士の会話は途切れることなく続きました。

お酒造りはは理科室を改造して場所を仕込み蔵として使っています。ガラスのドアやガラスの小窓から覗くと、小さめの醸造機械が揃っているのがわかります。この日の参加者は、初夏と言っていい季節に、酒造りの様子も見ることができました。この小さな醸造所が多くの人たちをつないでいるのです。

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「佐渡〜〜〜〜!」

「佐渡〜〜〜〜!」

「私はずっとこれ」、と地元のお酒を飲み続ける人たち。「あのおじいちゃんが飲んでくれるから」とタンク一本でも昔ながらのお酒を造り続ける各地の酒蔵。土地と切り離せない家業は地元と関わらずには成り立たない。それが酒蔵であれば、法事など冠婚葬祭には無条件に使われる。販路を広げることで、日本各地と、世界とつながるツールになる。酒蔵は水の良いところ、すなわち、環境の良いところを選びます。地元の良さをわかってほしいというメッセージは、地元に密着した地酒蔵にこそ、伝えられることなのかもしれなません。酒蔵ができること、いろいろありそうです。

お疲れ様でした。

お疲れ様でした。

「学校蔵 特別教室」で見た、酒蔵が進める地域興しの形

written by伝々

【伝々(でんでん)】こと、ライターの伝農(でんのう)浩子です。 音楽雑誌編集部や旅行を扱う編集プロダクションを経てフリーランスに。 国内外を扱うガイドブックで取材スタッフを続けた後、人物インタビュー、中でも日本に住み日本の伝統文化を継いでいる外国人、日本の伝統文化を海外に広めている人などを、また、ビアトリクス・ポターと「ピーターラビット」シリーズなどをテーマに取材、執筆、撮影。 その一方で、1993年から、ある日本酒の会の試飲会を手伝い、幸せそう〜に帰っていく人たちを見送ってきました。数年前からは、日本酒を取り巻く状況もテーマとなっています。 *****過去記事***** 日本酒関係  日本酒以外

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