レポート

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奇跡のリンゴならぬ奇跡のお酒

2018 01.17

そこは町並み保存地区

新倉敷駅からバスで10分。そこから歩いて15分程。
待ち合わせの時刻まで少し時刻があったので少し散策してから蔵元へ向かおうと思い、近くにあると思われる羽黒神社を探してウロウロ。Google Mapに頼るのが良くない癖ながら近くにいるはずなのに鳥居が見つからない。
見逃していた神社の看板を発見し「ここか?」と疑いながらコンクリートの急坂を登ってみると上にありました、神社が。高くて景色が良いのでひとしきり町を眺めてから正面と思しき階段を降りて鳥居をくぐってビックリ。これは見つけられない。目の前が民家で行き止まりの路地でした・・・。
さて、今度は菊池酒造へ向かうためにまずは川まで行き、橋を渡るとそこは「倉敷市玉島町並み保存地区」。土壁の蔵や蔵っぽい壁の家屋が並んでいて、どこも酒蔵に見えてくる不思議な感覚の中を進んでいき、「紙屋さんがある・・」と物珍しげにのぞきながら進んでいくと突き当たりに出てしまった。
あれっと思ってすこし戻ると味噌醤油蔵の隣の駐車場分だけ奥まったところが菊池酒造でした。紙屋さんの斜め向かいで、私が紙屋さんに気を取られて通り過ぎていたのです。ちょうど約束の時刻も近づいていたので「いざ、入店」。

菊池酒造とその周辺
左)菊池酒造正面 右)保存地区の町並み

なぜ自然栽培のNPOと酒蔵が繋がったのか

そもそも今回菊池酒造へ伺う事になったきっかけは「奇跡のお酒」という木村式自然栽培で栽培された酒米で醸された日本酒を知った事でした。
雄町のそれはとてもすっきりとした中に米の旨味を感じさせるとても綺麗な日本酒でした。雄町好きの私としては持っていた雄町のイメージとは少し違い、綺麗すぎるかなとも思える味にとても興味を持ったのです。

ご挨拶とお伺いした経緯を改めてお伝えした後は、早速一番気になっていた「木村式自然栽培」のNPOと繋がったきっかけを伺いました。元々岡山・倉敷の木村式自然栽培の話は地元の回転寿司チェーンの社長でもある現在のNPO代表の想いから始まったそうです。その方は「生産から消費までを考えた組織を作る必要がある」という考えのもと、ご自身の寿司チェーンでの利用はもちろん、販売するスーパーが必要と地元のスーパーを、個人が買えるように会員組織を、そして米の加工品として日本酒を作ろうと酒蔵を組織に加え、さらにJAにも協力を仰ぎ、生産者を迎えた訳です。以前からその方と菊池酒造の社長がお知り合いであった事からお声がけがあり、木村式自然栽培のお米と菊池酒造が繋がったのでした。

「作れば買ってもらえる」という安心感が生産者の方の背中を押して始まった「NPO法人岡山県木村式自然栽培実行委員会」。今となって言葉で書くのは簡単ですが、その取り纏めにはとても多くの苦労があったのではないかと推察されます。ただ継続した栽培のためには消費の仕組みは必須であることは誰もが認める所であり、その当たり前を形に出来たことが現在の成功に繋がったことは間違いない事でしょう。

ところで「木村式自然栽培」って?

さて、ここまで何度も「木村式自然栽培」と書いてきましたが、少し説明が必要ですよね。皆さんは「奇跡のリンゴ」という映画をご存知でしょうか。
私はこの映画で木村秋則さんというリンゴ農家の方を知りました。農薬を使わない、肥料もやらないというこの農法にかなり衝撃を受けました。
日本は「何が正しい、正しくない」ではなく、「こんなやり方もある」という提案を受け入れる社会であって欲しいですし、いち消費者として選択の自由が欲しいと感じます。そういう意味でも頑張ってほしいなと思いつつも、通常よりも少し単価の高いリンゴを探してまで購入したわけではなかったことも事実です。
それでも子供を三人持つ親としても、自分個人としても合鴨農法などで栽培される有機栽培のお米に興味を持っていました。そこに奇跡のリンゴの木村さんから指導を受けて農薬と肥料を使わないでお米を栽培していることを知り、そしてそのお米でお酒が作られていると知った時にはとても強い興味を持ちました。それがNPO法人岡山県木村式自然栽培実行委員会が作るお米、そして「奇跡のお酒」だったのです。
ラベル
雄町 奇跡のお酒 左)純米80 右)純米吟醸

「奇跡のリンゴ」からの「奇跡の米」、そして「奇跡のお酒」へ

木村式自然栽培のお米は当初「朝日米」という岡山特産の飯米のみだったそうです。
これが元々日本酒造りにも使える米だったことから仕込みにも使われました。現在も醸されている「奇跡のお酒 純米吟醸 朝日米」の誕生です。
栽培方法が違うお米は、当然ながら性質も変わるため、当初は酒造りにも苦労が多かったそうです。しかし良い味のお酒が出来たことから「岡山なら雄町の酒も造りたい」という思いで雄町の自然栽培も始めることになったと言うことでした。日本酒ファンとしては嬉しい限りですね。
そして朝日米に加えて、雄町の栽培もうまくいき、収穫量もふえていった訳ですが、なんでも簡単に自然栽培でうまくいくわけではないというのは想像できることですよね。まだ、科学的な根拠はありませんが、朝日米と雄町は人工的な交配がされていない、原種に近い品種だった事が良かったのではないかという考えが出てきていると伺いました。言われてみると原種に近い方が肥料もない自然栽培には向いているような気がします(気がするだけですが・・・)。理由はともかく、雄町もうまく栽培できるようになって消費者としては嬉しい限りです。こうして朝日米と雄町の「奇跡のお酒」も安定した仕込みが出来るようになり、より多くの方にお届けしたい!というお話でした。

一般的に酒米について品種の違いや生産地の違いが色々と語られる昨今ですが、そうなるとお米の栽培方法の違いも当然、酒米の品質に影響をもたらすと考えられるでしょう。品質だけではなく生産地の環境保全にも影響を与えると言われる栽培方法の違いについて、我々消費者は理解を深め、価値を考えるべきだと私は考えています。
皆さんはいかがでしょうか。いつものお酒の選択基準の中に “時々“ 栽培方法を加えるというくらいの感覚で始めてみるのも良いと思いませんか。
稲穂
雄町(左)と朝日米(右)の稲穂。やはり雄町は長い。

少量手仕込みの吟醸酒

お米のお話を伺った後、仕込みの最中の蔵を見せていただきました。規模が大きくないこともあり小さめのタンクでひとつずつ丁寧に仕込まれている印象です。奇跡のお酒だけではなく通常銘柄の「燦然」を含めても現在は特定名称酒の割合が非常に多いということでお酒の保管や出荷を考えると小さめのタンクが良いというお話でした。通常蓋をされている純米大吟醸のタンクを見せていただきましたが、蓋を開けたとたんにとても良い吟香がして嬉しくなりました。発酵も活発な時期でプツプツと泡のはじける音が聞こえます。動画を撮ってみたのですが、音までは上手く拾えていなかったので今回は写真で。蔵の中ではクラッシック音楽が流れていました。私が不思議そうにしていると「社長は音楽家でもあるので」と専務が仰っていました。倉敷のオーケストラで指揮者をされているそうです。赤ちゃんの胎教にも良い音楽が良いというくらいですから、お酒の酵母達にも良い影響があるのかもしれません。
小量手仕込みはこだわりの一つということで最近購入された吟醸用サーマルタンクも敢えて「小さめ」にされたそうです。
瀬戸内の温暖な気候の中、クラッシックを聞いたお酒は東北や北陸の極寒の中で造られたお酒とは少し違った個性を持つのではないかと感じました。味としてそれを科学的に説明するのは難しいですが。。。。

もろみ
純米大吟醸の醪。クラッシック音楽を聴きまくってます!

岡山ならではの朝日米と雄町で醸す「奇跡のお酒」。また呑むことになりそうです。
次は通常銘柄の「燦然」と呑み比べてみるのも楽しいかな。

追伸:
自宅に戻ってから某百貨店で購入して「特別純米酒 燦然 限定生原酒」を呑みました。お米は岡山県産雄町。
「まさに」という感じの吟香と甘味で”生の吟醸”という印象でした(実際は特別純米酒なのですが)。味は濃いめなので濃い味のお料理と合わせても負けません。私は宇都宮餃子と一緒に美味しくいただきました。

奇跡のリンゴならぬ奇跡のお酒

written byけんけん

けんけんこと、岡 健一郎(おか けんいちろう)です。日本酒を飲み始めて20年。年を追うごとに日本酒が好きになっていき、今では周りの若い人に日本酒を薦めています。2017年までは普段はIT関係の仕事をして、夜には呑みに行ったり、家呑みしたりの日々を過ごしていました。 sakefanサイトをご覧いただいている多くの方と同じ立ち位置からの発信をしていければと思って始めたこのコラムですが、勤めていたIT企業を辞めてネット専業の酒屋になりました(それだけではありませんが)。 また日本酒ラベルのコレクターとしては集めたラベルのデジタル化(blog化)を始めました。ご興味のある方はご覧くださいSAKE-LABEL.COM(https://sake-label.com)

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